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こんにちは。AI・機械学習チームの田中(@yusuke14tanaka)です。 この記事はAI・機械学習チームブログリレーの13日目の記事です。12日目は鴨田さんによる「SAM3とマトリックス・コードで作る"cat matrix"」でした。 www.m3tech.blog 2026年1月にエムスリーに入社し、気がつけば3か月が経ちました。前職では、視覚障がい者向け歩行支援デバイス「あしらせ」を開発する株式会社Ashiraseで共同創業者兼取締役CTOを務めていました。 前職あしらせのTシャツを着た筆者 今回は、スタートアップのCTOから、エムスリーのAI・機械学習チームに転職した自分が、入社前に感じていた不安と、3か月経った今の正直な感想をお伝えしたいと思います。 同じような境遇で転職を迷っている方、特にCTO経験者の方に届けば嬉しいです。 前職でやっていたこと なぜエムスリーにしたのか 入社前に感じていた5つの不安 1. 歯車になるのでは? 2. 裁量がなくなるのでは? 3. 我流のスキルでついていけるか? 4. 畑違いの領域でやっていけるか? 5. 東証プライム上場企業は堅いのでは? 3か月経って、実際どうだったか 歯車感 → ほとんど感じていない 裁量 → 全く困っていない 我流スキル → 「わからない」への耐性が活きた 畑違い → 意外なところで繋がった プライム上場企業の堅さ → 想像よりずっと柔らかい Claude Codeという最強のキャッチアップ相棒 エムスリーの学びの文化 CTO経験が活きていること CTOはあくまで「役割」の一つ CTO経験者の方へ We are hiring! エンジニア採用ページはこちら カジュアル面談もお気軽にどうぞ インターンも常時募集しています 前職でやっていたこと 「あしらせ」は、靴に装着する振動デバイスとスマートフォンアプリを組み合わせた、視覚障がい者向けの歩行支援サービスです。共同創業者兼取締役CTOとして、組み込みFW(C / FreeRTOS)・iOSアプリ(Swift)・バックエンドシステム(Python / Flask)の開発を一貫してリードしていました。 あしらせデバイス(出典: ashirase.com) ゼロからプロダクトを立ち上げ、大手家電量販店をはじめとする代理店での販売まで漕ぎ着けることができました。CES 2023 Innovation Awardや、東京都ベンチャー技術大賞 優秀賞、J-Startup 2023 認定もいただいています。 技術的には組み込みFW開発がメインで、あしらせデバイスの姿勢推定アルゴリズムや、BLE(Bluetooth Low Energy)を使ったOTA(Over the Air)によるFWアップデートの仕組みなどをゼロから作っていました。カルマンフィルタや粒子フィルタを用いた歩行者デッドレコニング(推測航法)にも取り組んでおり、この制御工学の経験が、後述するエムスリーでの仕事に意外な形で繋がることになります。 なお、本記事の執筆や画像の掲載について、Ashirase代表に相談したところ快くOKをいただきました。 なぜエムスリーにしたのか 共同創業者兼取締役CTOとして5年半走り続ける中で、持病もあり働き方を見直す必要が出てきました。次のキャリアを考えたとき、エムスリーのAI・機械学習チームでは、ソフトウェア開発だけでなく、機械学習モデルの構築にも携われると聞いたのが決め手でした。 また、優秀なエンジニアが多い環境で、自分の技術力を伸ばしたかったというのもあります。1人目のエンジニアとしてゼロから開発を始め、我流で進めてきた部分がどうしても多かった。コーチのような存在もいない。メガベンチャーのエンジニアのレベルを肌で感じながら、自分の技術力をもっと高めていきたいと思っていました。 入社前に感じていた5つの不安 CTO経験者がメガベンチャーに転職するとき、特有の不安があります。自分の場合は、こんなことを考えていました。 1. 歯車になるのでは? スタートアップのCTOは、プロダクトの全体像を見渡しながら仕事をします。メガベンチャーに入ったら、大きな組織の一部品として、狭い領域だけを任されるのではないか。そんな不安がありました。 2. 裁量がなくなるのでは? 技術選定も設計判断も、自分で決めて動けるのがスタートアップの醍醐味です。メガベンチャーでは、承認フローや会議を経ないと何も進まないのではないか、と思っていました。 3. 我流のスキルでついていけるか? 正直に言うと、これが一番大きな不安でした。スタートアップでは体系的にスキルを学ぶ機会が少なく、常に我流で模索しながら開発していました。メガベンチャーの優秀なエンジニアの中でちゃんと成果を出せるのか、かなり不安でした。 4. 畑違いの領域でやっていけるか? 組み込み・モバイル畑からWeb・MLの世界へ。Python、Go、GCP、Kubernetes、BigQuery——技術スタックが根本的に違う領域への転身です。キャッチアップできるのか、戦力になれるのか、という不安がありました。 5. 東証プライム上場企業は堅いのでは? スタートアップはカジュアルな文化が一般的です。プライム上場企業に入って、堅い雰囲気に馴染めるのだろうか、という漠然とした不安もありました。 3か月経って、実際どうだったか 歯車感 → ほとんど感じていない AI・機械学習チームでは、プロジェクトをほぼ丸ごと任される文化があります。自分でプロジェクトの全体像を把握しながら動けるので、歯車感はほとんど感じていません。 むしろ、チームを越えた動きもしやすい環境です。BigQueryにどういったデータがあるかが探しにくい状態だったので、Claude Codeのプラグインや独自ツールを活用して、全社的にBigQueryのデータを検索しやすくする仕組みを他チームに提案しに行ったりもしました。こうした動きがしやすい関係性があるのは、とてもありがたいです。 裁量 → 全く困っていない 裁量がなくて困った、という経験は3か月間で一度もありません。現場での意思決定が尊重される文化があり、メンバーであっても自分の判断で動ける幅が広いと感じています。 我流スキル → 「わからない」への耐性が活きた 最初はかなり苦労しました。打ち合わせ中に何を言っているのか理解できないことも正直多かったです。BigQueryも、GCPも、Goも、触ったことがない。組み込み系ではWindowsがメインだったので、MacがメインPCになったこと自体が初めてで、そもそもパソコンの使い方みたいなところからつまずいたりもしていました。新人時代に戻ったような感覚でした。 ただ、スタートアップで5年半やってきたおかげで、「わからない」ことに対する耐性はかなりついていました。CTOをやっていたら、知らないことに出会うのなんて日常茶飯事です。そこでへこたれている暇はなかったし、その感覚が今も活きています。 畑違い → 意外なところで繋がった これが一番伝えたい話です。 現在、コンテンツレコメンドの最適化を担当しているのですが、既存のコンテンツ表示の抑制ロジックがステップ関数のような離散的な制御になっていました。ここを連続的な制御に変える改善を行い、全ユーザーに展開できました。 具体的には、コンテンツごとの興味持続時間を考慮するモデルへと改善し、医師の皆様により"今の興味"に近い情報を届けられるようになりました。入社3か月で手応えのある成果を出せたのは、自分にとっても大きな自信になりました。 この改善のアイデアは、あしらせ時代にカルマンフィルタや制御モデルを扱っていた経験から、ごく自然に出てきたものです。離散的な制御は現実に即さないことが多く、制御工学的には避けられる手法です。その感覚があったからこそ、改善の方向性がすぐに見えました。 また、banditアルゴリズムの理解にも、前職の知識が役立ちました。banditの内部でもベイズ更新が使われていますが、カルマンフィルタで散々ベイズ更新と格闘していたおかげで、内部状態が逐次的に更新されていく感覚がすんなり理解できました。「基礎からわかる時系列分析」という書籍も併せて読み、制御工学と機械学習の接点をより深く理解できました。 畑違いの経験は、無駄にならない。 むしろ、異なる領域の知識があるからこそ出せる価値がある。これは3か月で得た一番大きな実感です。 プライム上場企業の堅さ → 想像よりずっと柔らかい これは一番ギャップが大きかったかもしれません。想像していたよりもずっと柔らかい。エンジニアリングチームは良い意味で柔らかく、コミュニケーションも取りやすいです。 特にエンジニア気質というか、ちょっとコミュニケーションが難しい人——いわゆる「聞きづらい人」が全くいない。これは本当に驚きました。チーム内はもちろん、チーム間でもとても協力的で、質問もしやすく、キャッチアップもしやすい。 Claude Codeという最強のキャッチアップ相棒 キャッチアップの話をもう少し掘り下げます。 エムスリーではClaude Codeが使い放題です。これが、畑違いの領域からのキャッチアップに本当に助かりました。 具体的には次のような使い方をしていました。 BigQueryのクエリを書くときに聞く Go言語の書き方を教えてもらう 論文を読むときに要約・解説させる M3内で開発・管理しているOSSパッケージgokartの使い方や実装を聞く さらに、AI・機械学習チームのメンバーが作成したClaude Codeのスキルやナレッジが蓄積されており、チームの暗黙知にもアクセスしやすい環境が整っていました。 さらに、次のテックブログ記事にもあるように、 www.m3tech.blog エムスリーではほぼ全員のエンジニアがClaude Codeを日常的に使っており、AIレビューやスキルの共有がチーム横断で進んでいます。こういったナマの知識が社内に蓄積されていて、それを吸収できるのも大きいです。 おかげさまで、すっかりClaude Codeのヘビーユーザーです。CTOをやっていた頃は、わからないことがあっても自分で調べるしかなかった。今は、Claudeに聞けるし、チームメンバーにも聞ける。この差は本当に大きいです。 エムスリーの学びの文化 もう一つ、入社して驚いたのが学びの文化です。 Googleのデータベースに関する輪読会 論文輪読会 技術書の輪読会 自分の技術を発表するテックトーク これらが毎週のように開催されています。しかも形骸化しておらず、ちゃんと身になっている。 自分の場合、Googleのデータベース輪読会に参加したとき、最初は正直何を言っているのか全然わからなかった。ですが、自分で復習し、2か月後には自分でも発表しました。まだ完全に理解できているとは言えませんが、BigQueryやデータベースに対する感覚値をつかむことができたのは、この輪読会のおかげです。 こういった場で否定する人が一切いないのも特徴です。本当に心地よく発表を聞けるし、発表することができる。スタートアップでは、こうした組織的な学びの場を作る余裕がなかったので、これはエムスリーならではの価値だと思います。 CTO経験が活きていること CTOをやっていた頃は、とにかく会社の成長が最も大切だと考えていましたし、そのために必要な仕事をレバレッジが効く順に実施していました。最もやばいところに常に自分が入り込む。 この考え方は、メガベンチャーであっても変わりません。 自分にとって都合が良いことではなく、会社全体にとってベストなことを選ぶ。 この判断軸はCTOをやる中で身についたものですし、エムスリーの「しゃ(社長意識)」とも重なる部分が大きいです。 CTO経験者であれば、この社風は自然にフィットするのではないかと思います。 CTOはあくまで「役割」の一つ 転職を考えたとき、「CTOからメンバーに戻ることに抵抗はないのか」と聞かれることがあります。 正直に言うと、全くありません。 CTOはあくまで役割の一つでしかない。プライドとかそういう話ではなくて、その役割が必要な場面で、自分がその役割を担う。それだけのことです。エムスリーではグループ会社でCTOを務める道もありますし、役職に固執する必要は全くないと思っています。 むしろ、CTO経験があるからこそメンバーとしても強い。全体を俯瞰する力、ステークホルダー全体の最適化を考える癖、未知の領域に飛び込むキャッチアップ力。これらは役職に関係なく活きるスキルです。 CTO経験者の方へ 最後に、スタートアップでCTOをやっていて、メガベンチャーへの転職を迷っている方へ。 エムスリーは、CTO経験者にとって良い環境だと思います。理由を3つ挙げます。 ビジネスを重要視するカルチャー。会社全体のメリット・デメリットを考えて動いてきた経営者やCTOからすると、すごく馴染みやすい環境です。 技術力が高く、学び続ける文化がある。テックトークや論文輪読会が当たり前にある。技術に対して熱心な人が多く、自分もまだまだ成長できると感じられる環境です。 現場の決定権が大きい。CTOの裁量からメンバーになっても、裁量がなくなったとは感じていません。自分の判断で動ける幅が広いです。 不安に感じている方がいれば、それは杞憂だとお伝
データ基盤チームでソフトウェアエンジニアをしている橋口 (@matsudo840) です。 技術書典20が2026/04/12(日)に開催されます(オンライン開催は4/11-4/26)。 記念すべき20回目の技術書典ということで、エムスリーのエンジニア有志を募り、新刊『エムスリーテックブック9』を携えてサークル参加します! エムスリーではギークでスマートなカルチャーを大切にしていますが、その中でも技術を楽しむギークさが際立つ1冊となっております。 オンラインでは4/11から、こちらからご購入いただけます!148ページで1000円と大変お得な内容となっています。 techbookfest.org この記事では皆さんに新刊を手に取っていただけるように、各章の著者からおすすめポイントを紹介します。 技術書典とは 第1章 等間隔に線を引くだけで生成するペンローズタイリング 第2章 OCamlのはじめかた 第3章 Rustで作るPython型チェッカー 第4章 goroutineを作ってみる。Rustで 第5章 Rustで作るギター用デジタルエフェクター 第6章 つくって学ぶ JSON Web Token 第7章 AIは伝統パズル「箱入り娘」を解けるのか? 非エンジニアがGeminiと挑んだ8分間の奇跡 第8章 AIを活用して技術書を読む 第9章 老人Z80 — ESP32によるZ80 CPU介護ボード製作記 まとめ 技術書典とは 技術書典は技術同人の集まりとして長年続くイベントです。 運営の皆様のご尽力と、多くの著者・読者の皆様が共に作り上げてきた、ギークの祭典。 毎年数千人が集まり、何百ものサークルが技術への愛と情熱を持ち寄る場には、読み切れないほど面白い本が並びます。 今回は記念すべき第20回。私たちも第6回から参加させていただいている1サークルとして、この節目を一緒に盛り上げられることを大変嬉しく思っています。 www.m3tech.blog エムスリー執筆部もサークルとして盛り上げてまいります!それでは新刊の紹介をどうぞ! 第1章 等間隔に線を引くだけで生成するペンローズタイリング 【著者のコメント】 前回に引き続き、数学的タイリングについて書かせていただきました。等間隔に線を引くだけでペンローズタイリングを生成する方法とは? 筆者が最近得た結果もチラ見せしていますので、ぜひご覧ください! 第2章 OCamlのはじめかた 【著者のコメント】 今熱い(著者調べ)言語OCamlをはじめてみたい方にもそうでない方にもぜひ読んでいただきたい入門です。 課題としてトランプゲームのブラックジャックを設定し、極力実際の利用にも耐えるような構成を目指しました。 これを読めばOCamlで実際のアプリを作成できるようになるはずです。 第3章 Rustで作るPython型チェッカー 【著者のコメント】 AI・機械学習チームの北川(@kitagry)です。 本章はmypyの歴史からty/pyreflyまでの変遷とRustでミニPython型チェッカーを実装するところまで書いています。 自分でリテラル推論からTypeVar単一化までを実装します。 Pythonをセキュアに書きたい人からRustで何かを自作したい人までおすすめの章です! 第4章 goroutineを作ってみる。Rustで 【著者のコメント】 エンジニアリンググループ ゼネラルマネージャーの横本(@yokomotod)です。 「軽量」「何万個も作れる」「並行処理が簡単に書ける」…そんなgoroutineの裏側はどうなっているのか。 今回は過去にブログ公開したgoroutineランタイム自作をさらに発展させ、ネットワークI/O待ちなどにも対応して書籍化してみました。ブログを読んでいただいた方も是非手に取ってみて下さい! 第5章 Rustで作るギター用デジタルエフェクター 【著者のコメント】 デジスマチームの小島(@jiko_21)です。 本章はギター用デジタルエフェクタをRustで実装する方法について解説します。 オーバードライブ、ディレイ、エコーなど、それぞれの音響効果がどのようなものか、モデル化したうえで実装していきます。 ギターを弾いている人やエフェクターを使って音作りを楽しんでいる人におすすめの章です。 第6章 つくって学ぶ JSON Web Token 【著者のコメント】 リサーチプロダクトチームの佐藤(@riku929hr)です。 本章は、認証で用いられることの多いJWT(JSON Web Token)を自作し、その仕組みについて楽しく理解するものとなっています。 認証やJWTに興味のある人に特におすすめの章です! 第7章 AIは伝統パズル「箱入り娘」を解けるのか? 非エンジニアがGeminiと挑んだ8分間の奇跡 【著者のコメント】 マーケティング部門(非エンジニア)からの参加です。今回、AIにパズル「箱入り娘」を解くプログラムを作らせてみました。AIは教科書通りのロジックを組むことはできましたが、肝心のパズルは解けず……。しかし、人間がたった一言「ヒント」を与えたところ、見事に正解へと辿り着きました。 一体どんな言葉がAIを動かしたのか? ぜひ本編でその裏側をお読みいただけると幸いです。 第8章 AIを活用して技術書を読む 【著者のコメント】 分厚くて難しい技術書を読むときにAIと一緒に納得できるまで読み進めるために取り組んでいることを書きました。プロンプト付きです。 第9章 老人Z80 — ESP32によるZ80 CPU介護ボード製作記 【著者のコメント】 本章では、ESP32-S3のGPIOをフル活用し、Z80のアドレスバスを監視しながらメモリのフリをしてデータを流し込む、ソフトウェアによるエミュレーションの実装方法を解説します。 ジャンク屋でZ80 CPUを見つけて勢いで買ったはいいものの、動かすための回路を組むのは正直しんどい。そんな悩みへの解決策が「ESP32による介護」です。 まとめ 今週末から始まる技術書典、サンシャインシティのオフライン開催に参加される方は、ぜひエムスリーのスペース「く07」まで遊びに来てください! 技術が大好きな執筆メンバーがお待ちしております。ワイワイお話しましょう〜。 新刊・既刊を合わせ、技術書典オンラインマーケットでも頒布しております。